保見アートプロジェクト発足
保見団地の建物の共有スペース壁をアートで生まれ変わらせてほしいとの依頼があり、現場を視察し、引き受けることになった。
業者が一度壁を白く塗るから、それからスタートしてほしいとのことだ。
今あるペイント(落書き)を生かせるかもしれないと思って現場を見てみたけど、そもそも雨漏りなどもあるため天井の修理や壁の張り替えをするとのことで、白く塗られてからのスタートとなる。
保見団地に住む外国人の子どもやペインターたちと協働で絵を描き、この場所を憩いの場、集会場として再生させることを目的としている。
保見アートプロジェクトの発足に伴い、これまで3回の会議を行った。
今回のプロジェクトは壁に絵を描くことであるが、壁に絵を描くだけでは意味がないことを理解した。
この活動が団地に住む外国人に認知されなければ結局、完成した絵の上にさらに落書きされるだろう。
「アートの力で、ともに歩む」というテーマを掲げ、参加する10名のアーティストが団地の外国人を中心とした住民とアートを通して交流を図る。
しかし道のりは長い。自治区の人たちからの話では、イベントをやろうにも外国人は集まってこないだろう。とのこと。ゴミの分別の指導や粗大ごみの出し方などを掲示しても、マナーが悪くなかなか日本の習慣に馴染めていない様子もある。一斉に集めて何かをやるという試みはあまり成功したことがないようだ。
それぞれ生活することに一生懸命で余裕がないのではないかとの声もあった。
現在は、ワークショップなどのイベントを通して交流していくことを企てている。
今回、プロジェクトのリーダーに就任した自分にとって、アートの力がどのように国境を越えていくかのチャレンジである。
「保見団地は、豊田市の北西部に位置する大型団地で、令和元年現在、保見ヶ丘地区の人口7,296名のうち、日本人は44,1%、ブラジル人は49,3%で、その他にも、ペルー、ベトナム、中国などの方々が暮らしています。団地に入ると、ブラジル系のスーパーや、教会などがあり、どこか異国のような雰囲気です。
保見団地は、1975年から入居が始まり、1990年に入管法が改正されると、近隣の自動車関連企業で働くために、日系人の方が集まるようになりました。それ以降の保見団地では、ゴミ出しや騒音、生活習慣をめぐるトラブルや事件がありましたが、自治体やNGO、ボランティア団体による「共生」に向けた教育、交流促進活動が行われるようになりました。しかし、2008年のリーマンショックで、多くの住民が「派遣切り」に合い、失業しました。不安定な雇用条件で働く方々は、国籍に関わらず、今後も厳しい状況に立たされる可能性があります。
現在、保見団地では、共同スペースへの落書きや不審火が発生し、言語・文化の違いからも、住民相互の交流が難しい雰囲気があります。さらには、外国につながる子供たちの教育問題、住民が高齢化していく問題も予測されます。
このような問題は、保見団地に限ったことではありません。日本の労働人口が減少し、外国籍の方の受け入れを促進していることから、近い将来、同じような問題が、日本の全自治体で起こる可能性があるのです。自治体が慢性的な機能不全に陥らないためには、外部からの支援だけでなく、住民が自立的に生活するためのエンパワーメント(力付けの過程や仕組み)が必要だと考えられます。
保見アートプロジェクトはNPO法人トルシーダの呼びかけにより、美術家中島法晃をリーダーに据えて、愛知、岐阜、三重の有志のアーティストが始動したプロジェクトです。アートワークショップで住民の交流をはかり、エンパワーメントとしての、アートの役割を実践しようとします。最後に皆で25棟にある憩いの場の落書きを、「多文化共生社会」をテーマとしたアート作品に大変身させることがミッションです。アートの力で、自分の住む街に愛着や明るさを感じてほしいという、関係者の純粋な願いがこめられています。
「多文化共生社会」とはどのような社会でしょうか。もし実現可能であるとしたら、私たちには今、何ができるのでしょうか。このプロジェクトを通じて、より多くの方々に、考える機会を持っていただけたら嬉しく思います。」(フライヤーから抜粋)